売れない建売住宅はどうなる?売れない理由や売れ残りを防ぐための販売戦略
建売住宅の販売が深刻な不振に陥っています。2024年は28カ月連続の着工減少、過去最高の在庫水準を記録し、「建売氷河期」とも呼ばれる状況です。売れ残った建売はどうなるのか、なぜ売れないのか──市場データと最新事例から、建売住宅の現状と売れ残りを防ぐための販売戦略を考えます。
売れない建売住宅が増えている?──市場の現状と背景
2024年以降、新設住宅着工戸数の推移や在庫状況、そして金利・資材価格の動向から、建売住宅市場の構造的な変化が鮮明になってきました。
建売住宅の販売動向と新設住宅着工の推移
国土交通省が発表した2024年の新設住宅着工統計によると、建売住宅(一戸建て住宅)の着工戸数は12万1,191戸となり、前年比11.7%減と2年連続の大幅な減少を記録しました。
減少傾向は一時的なものではありません。2024年の新設住宅着工戸数全体も79万2,098戸と、リーマンショック後の2009年以来15年ぶりに80万戸を下回る水準まで落ち込んでいます。2025年度通年予想においても、前年度比約4%~9%ほどの減少予測があり、約72万戸~約78万戸になると考えられています。
建売住宅はその中でも特に深刻な減少を見せており、分譲住宅全体でも前年比8.5%減の22万5,309戸という結果になっています。
建売未契約件数は増えている?
着工戸数の減少と同時に、深刻化しているのが在庫の積み上がりです。建売住宅最大手の飯田グループホールディングスの「2025年3月期決算説明資料」を見ると、2025年3月期末時点での戸建分譲事業の期末未契約在庫数は21,619棟でした。

推移を見ると在庫は減少しているようにも見えますが、前期である24年3月期の決算では減益幅が拡大したことが報じられました。同社は2023年12月時点で約2万8,000棟の在庫を抱えており、 在庫調整のために価格を抑えた早期販売に注力した結果、営業利益が前期比42.2%減という大幅な減益となりました。
また、業界全体で2024年は6万5千戸を超える過去最高の分譲在庫を記録したとも言われており、新築住宅の供給過多の状態が深刻化していることがわかります。
特に深刻なのが、完成済み物件の販売期間の長期化です。通常、建売住宅は完成から数カ月以内に売却されるのが理想ですが、現在の市場では半年、1年と売れ残るケースが増えています。SNSなどでは「建売氷河期」という言葉まで登場し、業界内での不安を煽る状況となっています。
完成後の時間経過は物件価値に直接的な影響を与えます。建築基準法上は「新築」の定義は「完成後1年以内で未入居」ですが、完成から半年、1年と経過した物件は、購入検討者から「なぜ売れ残っているのか」と疑念を持たれやすく、販売がさらに困難になる悪循環に陥ります。
金利上昇・資材高騰が販売価格に与える影響
建売住宅の販売価格を押し上げている主要因の一つが、金利の上昇です。日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、17年ぶりの利上げに踏み切りました。さらに同年7月には政策金利を0.25%に、2025年1月には0.5%へと段階的に引き上げています。
この金利上昇により、2025年4月時点での変動金利は前年同期比で0.15%〜0.35%上昇しており、住宅購入者の月々の返済負担は確実に増加しています。住宅ローン金利の基準となる短期プライムレートも、一部の主要銀行で引き上げが行われており、今後も上昇局面が続くと予測されています。
同時に、建築資材の価格高騰も深刻です。建設物価調査会の「建設資材物価指数」によると、2015年1月の住宅建設コストを100とした場合、2025年10月は143.9と、10年で140%以上上昇しています。

木材価格はウッドショック時のピークからは落ち着いたものの、依然としてウッドショック前の約1.2〜1.3倍の水準で推移しています。
これらの要因により、仮設費・経費などを含めた全建設コストは上昇しており、この価格上昇分は販売価格に転嫁せざるを得ない状況です。
人口減少・ニーズ変化による需要構造の変化
長期的な視点で見ると、日本の人口減少が建売住宅市場に与える影響は極めて大きいと言えます。野村総合研究所の予測では、新設住宅着工戸数は2040年には58万戸まで減少し、空き家率は約25%まで上昇する見通しです。2025年から2040年の15年間で、着工戸数は27万戸減少(2025年度比-31.8%)すると予測されており、市場の縮小は避けられない状況です。

また、住宅に対する消費者ニーズも大きく変化しています。特に顕著なのが、戸建住宅のリセールバリュー(資産価値)に対する懸念です。国土交通省の「不動産価格指数」を見ると、マンションは2010年を100とした場合、2025年には220にまで高まっているのに対し、戸建住宅は120程度で推移しています。
この資産価値の差が、若年層を中心に「持ち家ならマンション」という選択を促しています。
なぜ建売が売れないのか。5つの要因
建売住宅が売れない背景について、価格、商品力、立地、販売プロセス、そして情報発信──それぞれの課題を詳しく見ていきましょう。
① 価格と所得の乖離による購買力低下

最も深刻な問題は、住宅価格と購買層の所得との乖離です。先出の飯田グループホールディングスの「2025年3月期決算説明資料」を見ると、戸建分譲住宅の平均販売価格は3,130万円で、前年同期比3,006万円から120万円以上の4.1%上昇しています。
一方で、実質賃金はマイナスが続いており、物価高が給与の伸びを上回っている状況です。
建築費の高騰により、デベロッパーの企業努力をもってしても販売価格を抑えることが難しくなっており、本来建売住宅のメインターゲットである「比較的安価な住宅を求める層」の購買力を超えてしまっているのです。
② 建物仕様・間取りの画一化による差別化不足
コスト削減を優先するあまり、多くの建売住宅は似たような仕様・間取りに陥りがちです。3LDK・4LDKの画一的なプランは確かに効率的ですが、共働き世帯の増加やテレワークの定着、多様化するライフスタイルには必ずしもマッチしていません。特に若年層は、個性や暮らし方に合わせたカスタマイズ性を重視する傾向が強く、「どこでも同じ」に見える建売住宅には魅力を感じにくくなっています。
③ 立地条件・エリア選定のミスマッチ
郊外の住宅地では、地価上昇と建築費高騰により、販売価格が大幅に上昇しています。しかし、立地の良い場所に建築される分譲戸建は高額でも売れている一方で、駅から遠い、利便性に欠けるエリアの物件は長期在庫化するケースが目立ちます。
特にリモートワークの普及により、「通勤の利便性より生活環境」という価値観が広がりつつある中、単に郊外であれば良いという時代は終わりを告げています。
④ 販売プロセスの属人化・営業効率の低下
建設業界では人材不足が深刻化しており、東京商工リサーチの発表では、2024年の倒産企業のうち建設業は1,924件で前年比13.6%増、3年連続で前年を上回っています。
特に「人手不足」による倒産は過去最多を記録し、業種別でも建設業が全体の3割と最も多くなっています。営業人員も不足しており、従来型の「モデルハウスで待つ」「個別に案内する」という販売手法では、機会損失が避けられません。
⑤ 情報発信の遅れ(Web・SNS活用不足)
住宅購入検討者の情報収集行動は完全にデジタルシフトしています。しかし多くの建売業者は、物件情報の更新が遅い、写真や動画が不十分、WebサイトやSNSでの発信が弱いといった課題を抱えています。特に若年層はInstagramやYouTubeで物件の雰囲気を掴んでから問い合わせをする傾向が強く、デジタルでの情報発信力の差が、集客力の差に直結する時代になっています。
売れ残った建売はどうなるのか
売れ残った建売住宅は、企業の経営にとっても悪影響です。在庫が長期化すればするほど、資金繰りの悪化やキャッシュフローの圧迫といった問題が顕在化していきます。
長期在庫化による資金繰り・キャッシュフローの悪化
建売住宅事業では、土地仕入から建築、販売までの期間中、多額の運転資金が必要です。通常、販売代金の回収により次の仕入資金を確保する資金サイクルが回っていますが、在庫が売れ残ると資金が固定化され、新たな仕入ができなくなります。さらに金融機関からの借入金利負担も月々積み上がるため、長期在庫化は企業体力を急速に消耗させます。
特に問題なのが「完成在庫」です。建築中の物件であれば、まだ建築費の一部は未払いですが、完成済み物件は建築費を全額支払い済みで、土地・建物の固定資産税も満額課税されます。さらに、金融機関への利払いは毎月発生し続けます。例えば、3,000万円の物件を年利2%で借り入れている場合、1カ月あたり約5万円、半年で30万円、1年で60万円の金利負担が発生します。これに固定資産税や管理費用を加えると、販売期間が長期化するほど利益が目減りし、最終的には赤字に転落するリスクが高まります。
飯田グループホールディングスのように体力のある大手でさえ、2024年3月期には適正な在庫保有水準を維持することを優先して価格調整による早期販売を進めた結果、営業利益が半減する事態となりました。中小の事業者にとって、在庫の長期化は死活問題といえます。
値下げ・再販・賃貸化などの在庫処理パターン
売れ残った建売住宅の処理方法は主に3つあります。第一は値下げ販売です。完成後一定期間が経過すると、「新築」としての魅力が薄れるため、段階的に価格を下げて販売します。第二は他の不動産業者への再販です。仕入業者や投資家に卸すことで、利益は薄くなりますが早期に資金を回収できます。第三は賃貸化です。売却を諦め、賃貸物件として運用し、長期的に収益を得る方法ですが、初期投資の回収には長い年月を要します。
不動産会社の損益構造とリスク管理の重要性
建売事業の損益構造を理解すると、在庫リスクの深刻さが見えてきます。一般的に建売事業の粗利率は15〜20%程度ですが、販売期間が長期化すると金利負担や固定資産税などの保有コストがかさみ、この利益が急速に目減りします。さらに値下げ販売を余儀なくされれば、利益がゼロになるどころか、赤字転落することも珍しくありません。
このため、販売開始前の段階でのリスク管理──ターゲット設定、価格設定、販売スケジュールの精緻な計画が極めて重要です。「作れば売れる」時代は終わり、緻密な事業計画とリスクヘッジが求められています。
倒産・事業撤退の事例と共通点
2024年、全国の企業倒産件数が11年ぶりに倒産企業が1万件を超え、建設業だけで1,924件という高水準を記録しました。倒産した企業の共通点を見ると、①在庫の長期化によるキャッシュフロー悪化、②金利上昇局面での借入金利負担の増大、③人件費・資材費高騰への対応の遅れ、④販売力・集客力不足、という要因が挙げられます。特に中小事業者は、大手のようなブランド力や資金力がないため、一度つまずくと立て直しが難しく、事業撤退に追い込まれるケースが増えています。
売れ残りを防ぐための建売販売戦略

厳しい市場環境の中で生き残るためには、従来の販売手法から脱却し、戦略的なアプローチが必要です。ターゲット設定の精度向上、集客導線の再設計、データ活用、そして販売プロセスの効率化──これらを組み合わせた総合的な戦略が求められています。
ターゲット選定と商品企画の精度を高める
まず重要なのは、誰に売るのかを明確にすることです。子育て世帯なのか、共働き夫婦なのか、リタイア層なのか。ターゲットによって求められる間取り、設備、立地条件は大きく異なります。
エリアの人口動態や競合物件の販売状況を分析し、そのエリアで確実に需要がある層を見極めた上で、商品企画を行うことが重要です。画一的なプランではなく、ターゲットのライフスタイルに合わせたカスタマイズ性を持たせることで、差別化を図ることができます。
モデルハウス・広告・集客導線の再設計
デジタル時代の集客導線は、従来のチラシやポスティングだけでは不十分です。
WebサイトやSNSでの情報発信を強化し、InstagramやYouTubeで物件の魅力を視覚的に伝えることが必須です。また、バーチャル内見やドローン映像など、来場前に物件の雰囲気を掴んでもらう施策も効果的です。来場後のフォローアップもCRMツールを活用し、顧客の検討段階に応じた適切なコミュニケーションを取ることで、成約率を高めることができます。
データを活用した販売進捗管理(CRM・MAツール)
販売活動の「見える化」は、リスク管理の基本です。どの物件に何件の問い合わせがあり、何組が来場し、どの段階で離脱しているのか。これらのデータをCRM(顧客関係管理)やMA(マーケティングオートメーション)ツールで一元管理することで、販売戦略の精度を高めることができます。
例えば、問い合わせは多いが成約に至らない場合は価格設定や商品力に課題があり、そもそも問い合わせが少ない場合は広告・集客施策に課題があると判断できます。データに基づいた迅速な意思決定が、在庫リスクを最小化します。
リスク分散を意識した用地仕入・販売スケジュール設計
すべての物件を同時に着工・完成させるのではなく、販売状況を見ながら段階的に建築を進める「時間差販売」も有効です。また、一つのエリアに集中投資するのではなく、複数エリアに分散させることでリスクヘッジができます。
さらに、金利動向や市場環境を常にウォッチし、柔軟に販売スケジュールを調整する機動力が求められます。
販売現場の省人化・効率化がカギ
人材不足が深刻化する中、販売現場の省人化・効率化は待ったなしの課題です。限られた営業リソースで最大の成果を出すためには、テクノロジーを活用した業務改革が不可欠です。
営業人員不足のなかで来場機会を最大化する方法
営業スタッフが不在でも見学できる仕組みを作ることで、平日夜間や休日など、顧客の都合に合わせた柔軟な見学対応が可能になります。特に共働き世帯や仕事が忙しい層にとって、「営業時間内に来場しなければならない」という制約は大きなハードルです。これを取り除くことで、来場機会を大幅に増やすことができます。
「無人内見くん」による非対面内見と顧客データ取得
こうした課題を解決するのが、「無人内見くん」です。スマートロックとクラウド予約システムを組み合わせることで、営業スタッフが立ち会わなくても、顧客が自由に物件を見学できる環境を実現します。
顧客はWebサイトから希望の日時を予約し、指定された時間にスマートフォンで解錠して内見を行います。営業スタッフの立ち会いが不要なため、1日に何組でも受け入れることができ、来場機会が飛躍的に拡大します。また、予約時に取得した顧客情報(氏名、連絡先、見学希望日時など)は自動的にデータベースに蓄積され、その後の営業フォローに活用できます。
さらに、内見中の滞在時間や見学回数などのデータも取得できるため、関心度の高い顧客を優先的にフォローするなど、効率的な営業活動が可能になります。
反響から来場・契約までの自動化による販売効率の向上
「無人内見くん」のようなシステムとCRM・MAツールを連携させることで、問い合わせから来場、契約までのプロセスを大幅に自動化できます。例えば、Web問い合わせがあった顧客に対して、自動で見学可能日時の案内メールを送信し、予約があれば自動で確認メールとスマートロックの解錠コードを送る。見学後は自動でお礼メールとアンケートを送り、関心度に応じて適切なタイミングで営業担当者がフォローする、といった一連の流れを仕組み化できます。
これにより、営業スタッフは雑務から解放され、成約確度の高い顧客への対応に集中できるようになり、成約率と生産性が同時に向上します。
売れない時代にこそ”営業の仕組み化”が企業の差を生む
市場が縮小し、競争が激化する時代において、勝ち残る企業と淘汰される企業を分けるのは、「仕組み化」の有無です。属人的な営業スタイルに依存している企業は、人材の流出や採用難によって業績が大きく変動しますが、営業プロセスを仕組み化している企業は、誰でも一定の成果を出せる再現性のある組織を作ることができます。
無人内見システムやCRM・MAツールといったテクノロジーの導入は、単なるコスト削減策ではありません。これは、限られたリソースで最大の成果を出すための「戦略的投資」であり、今後の競争優位性を確立するための必須条件なのです。
建売住宅市場は確かに厳しい局面を迎えていますが、だからこそ、従来の慣習に囚われず、データとテクノロジーを活用した新しい販売モデルを構築した企業にこそ、生き残りのチャンスがあると言えるでしょう。