オンライン重説とは?IT重説の仕組みと実施フローを解説
オンライン重説(IT重説)とは、テレビ会議システムなどのITツールを使い、不動産取引で必要な重要事項説明を対面ではなくオンラインで行う仕組みです。
賃貸取引では2017年から、売買取引では2021年から本格運用が始まっています。2022年5月の宅建業法改正では重要事項説明書の電子交付も可能になり、制度の整備は段階的に進んでいます。
一方、普及はまだ初期段階にあります。不動産流通推進センターが紹介する国土交通省の調査データによると、IT重説を導入済みの宅建業者は回答者全体の18%にとどまっています。遠方顧客への対応や業務効率化の観点から、IT重説の導入は不動産会社にとって現実的な選択肢として浮上しつつあります。
本記事では、IT重説の制度概要と実施条件を整理したうえで、具体的な実施フロー5ステップと失敗を防ぐ4つの注意点を解説します。
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目次
オンライン重説(IT重説)とは?制度の基本とオンライン化の範囲

IT重説の定義と制度が始まった経緯
「オンライン重説」と「IT重説」は同じ制度を指す言葉です。業界では「オンライン重説」と呼ばれることも多いですが、国土交通省の正式表記は「IT重説」であり、法令や公的マニュアルでもこの表記が使われています。本記事でも以降は「IT重説」に統一します。
IT重説が最初に本格運用されたのは賃貸取引の領域です。国土交通省は2017年10月1日に賃貸取引に係るIT重説の本格運用を開始しました(出典:国土交通省「平成29年10月1日より賃貸取引に係るIT重説の本格運用を開始」2017年)。
賃貸での運用実績を踏まえ、売買取引にも対象が広がります。2021年3月30日からは不動産の売買取引でもIT重説の本格運用が始まり、賃貸・売買を問わずオンラインで重要事項説明が実施できる環境が整いました(出典:国土交通省「不動産の売買取引に係る『オンラインによる重要事項説明』(IT重説)の本格運用について」2021年)。
制度が整備されてから数年が経過した現在でも、普及は限定的です。不動産流通推進センターが紹介している国土交通省の令和5年度調査のデータでは、IT重説を導入済みと回答した宅建業者は全体の18%にとどまっています。大半の不動産会社にとってIT重説はまだ「知っているが使っていない」段階にある制度といえます(出典:不動産流通推進センター「書面電子化とIT重説」2024年)。
オンライン化される範囲と電子契約との違い
IT重説を正しく理解するには、「何がオンライン化されるのか」を整理しておく必要があります。IT重説がオンライン化するのは、宅建士が口頭で行う重要事項説明という行為そのものです。書類を電子化するかどうかとは別の話です。
不動産取引のオンライン化は、大きく3つの段階に分けられます。

- 重要事項説明のオンライン化(IT重説): 説明行為をテレビ会議等で実施する。2017年・2021年から本格運用
- 書面の電子交付: 重要事項説明書や契約書を紙ではなく電子データで提供する。2022年5月の宅建業法改正で解禁
- 電子契約: 電子署名を使って契約を締結する。電子交付と組み合わせて使われることが多い
2022年5月18日の宅建業法改正により、重要事項説明書等の書面を電子データで提供できるようになりました(出典:国土交通省「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります」2022年)。
実務上の違いをまとめると、IT重説のみ導入している場合、説明行為はオンラインで完結しますが、書類のやりとりは郵送が必要です。電子交付・電子契約と組み合わせると、書類の送受信から署名まですべてオンラインで完結できます。両者は別々の制度として独立して運用できるため、まずIT重説だけ導入し、電子交付は後から追加するという段階的なアプローチも選択肢の一つです。
IT重説の実施に求められる要件
IT重説は「どんな形でもオンラインなら構わない」という制度ではありません。対面説明と同等の品質を確保するため、実施にあたっては以下の要件を満たす必要があります。

- 双方向の映像・音声通信環境: 宅建士と相手方が互いに顔と声を確認しながら説明できること。音声のみのツールは不可
- 宅建士証の画面上での視認確認: 宅建士は説明開始前に宅建士証をカメラに向けて提示し、相手方が内容を確認できること
- 書類の事前送付: 重要事項説明書を説明前に相手方が受け取り、手元に用意した状態で臨めること
- 相手方の同意取得: IT重説を行うことについて、相手方の承諾を事前に得ること。同意は強制できない
これらの要件は、宅建士が直接対面する場合と同等の確認・説明機会を相手方に保障するために設けられています。
国土交通省は2024年12月に「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」のマニュアルを改訂し、よくある質問(FAQ)の充実や承諾取得の例示が追加されました(出典:国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」2024年)。社内体制を整備する際は、この最新版を参照することを推奨します。
IT重説を導入する3つのメリット

IT重説のメリットは、手続きの効率化という不動産会社側の視点と、移動・時間の制約が解消されるという顧客側の視点、両方に及びます。
1. 顧客の来店・移動負担を軽減できる
IT重説の最も直接的な恩恵は、顧客が物理的に来店しなくてよい点にあります。転勤や進学で遠方に住んでいる顧客、引越しを前提に現在の住まいから移動が難しい顧客にとって、来店不要はそのまま契約の後押しになります。
不動産会社の視点では、これは取りこぼしていた顧客層へのアプローチです。従来は「重要事項説明のために来店できない」という理由で商談が止まるケースがありましたが、IT重説があればその障壁を取り除けます。顧客の移動時間・交通費の削減と、不動産会社の商圏拡大という2つの効果が同時に得られる点が、このメリットの本質です。

2. 日程調整の幅が広がる
対面での重要事項説明は、顧客と宅建士の両者が同じ時間・同じ場所に集まる必要があります。この制約が、特に働く世代の顧客との日程調整で大きな摩擦を生みがちです。IT重説であれば、顧客は自宅や職場のパソコンから参加できるため、平日の夜間や昼休みなど、来店が難しい時間帯にも実施しやすくなります。
日程調整のリードタイム短縮も見逃せないポイントです。対面の場合、顧客が来店可能な日と店舗の宅建士のスケジュールを合わせると、1週間以上先になることもあります。オンライン対応が可能なら選択肢が増え、顧客が「早く契約を進めたい」という気持ちのままスケジュールを押さえやすくなります。
3. 説明のやりとりを記録に残せる
オンライン会議ツールには録画機能があるものが多く、IT重説の実施過程を映像・音声として記録に残せます。「重要事項の説明を受けた」「この条件で合意した」というやりとりが記録されていれば、後日「言った・言わない」のトラブルが起きた際の証拠として機能します。
ただし、録画を行う場合は相手方の同意が必要です。「録画します」と一言伝え、承諾を得てから始めるのがルールです。同意を得ずに録画した場合、記録としての信頼性が損なわれるだけでなく、顧客との信頼関係にも影響しかねません。
IT重説を起点に、電子交付・電子契約・内見のオンライン化を組み合わせると、不動産取引の一連のプロセスがデジタルで完結するようになります。業務フロー全体の効率化という観点から、IT重説の導入は単独の施策ではなく、不動産DXの入口として位置づけられています。
IT重説の実施フロー(5ステップ)

IT重説は、国土交通省が定める要件を満たしながら進める必要があります。手順を事前に把握しておくことで、当日の対応が格段にスムーズになります。実施フローは以下の5ステップです。

- 顧客からIT重説の同意を取得する
- IT環境を確認し接続テストを行う
- 重要事項説明書を事前に送付する
- オンラインで重要事項説明を実施する
- 書類の返送または電子署名で完了する
1. 顧客からIT重説の同意を取得する
IT重説を行うには、相手方の承諾が法的に必要です。「今回はオンラインで重要事項説明を行ってもよいですか」という確認を事前に取り、記録に残しておきます。
同意の取得は強制できません。顧客が対面を希望する場合は、その意思を尊重する必要があります。メールや書面で承諾を得ると後から確認できる記録が残るため、口頭だけでなく文書として残すことを習慣化しましょう。
2024年12月の国土交通省マニュアル改訂では、承諾取得の具体的な例文が追加されています(出典:国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」2024年)。初めてIT重説を導入する際は、このマニュアルの記載例を参考にすることで承諾取得の文面を作りやすくなります。
2. IT環境を確認し接続テストを行う
IT重説では、双方向の映像・音声通信が「法的要件」として求められています。当日になって接続できないというトラブルは、そのまま重要事項説明の中断につながります。事前の環境確認と接続テストは省略できない準備です。
確認すべき項目は以下のとおりです。

- 顧客側の端末(パソコン・タブレット・スマートフォン)でカメラとマイクが正常に動作するか
- 使用する会議ツール(Zoom、Teamsなど)がインストール済みか、またはブラウザで動作するか
- インターネット回線が安定しているか(Wi-Fiの接続状況を確認)
- 宅建士証を画面に提示した際、相手方の画面で内容が視認できるか
スマートフォンのみで参加する顧客の場合、画面が小さくて宅建士証の文字が読み取れないというケースがあります。接続テストの段階で実際に宅建士証を提示し、「問題なく確認できますか」と一度確認しておくと安心です。
3. 重要事項説明書を事前に送付する
IT重説を実施する前に、相手方が重要事項説明書を手元で確認できる状態にしておくことが要件として定められています。当日に「初めて内容を見る」状態で説明を受けてもらうのではなく、事前に書類を読んでおけるよう余裕を持って送付します。
送付方法は、郵送と電子交付の2通りがあります。郵送の場合は説明日の数日前には書類が届くよう手配します。電子交付の場合は、2022年5月の宅建業法改正で認められた電子書面としてメールやクラウドで送ります。
電子交付を使う場合は、受信側が問題なく閲覧・印刷できる環境であることを事前に確認しておきます。
4. オンラインで重要事項説明を実施する
いよいよIT重説本番です。説明開始前にまず宅建士証をカメラに向けて提示し、相手方が画面越しに内容を確認できたことを口頭で確認します。「宅建士証をご確認いただけましたか」と問いかけ、相手方の応答を受けてから説明に入ります。
説明中は会議ツールの画面共有機能を使い、重要事項説明書の該当箇所を表示しながら進めると相手方が手元の書類と照合しやすくなります。説明の合間に「ここまでご不明な点はありますか」と理解度を確認する機会を章ごとに設けることで、一方的な説明になるのを防げます。
万が一、通信が途切れた場合の方針を事前に顧客と共有しておくことも必要です。「切断された場合はこちらから電話でご連絡します」「再接続できなければ日程を改めます」というルールを決めておくことで、当日のトラブル時にも落ち着いて対応できます。通信障害が発生した状態で説明を強行すると、要件を満たさない重説として扱われるリスクがあります。
5. 書類の返送または電子署名で完了する
IT重説が終了したら、書類の手続きで完了です。この段階では、郵送返送と電子署名の2つのルートがあります。

郵送の場合は、相手方に署名・押印済みの書類を郵送で返送してもらいます。電子交付・電子契約を導入している場合は、電子署名で手続きが完結します。電子署名を使えば、書類の往復が不要になり、完全オンラインでの取引完結が実現します。
どちらのルートを選ぶかは顧客の環境や意向によって異なります。「できれば全部オンラインで済ませたい」という顧客には電子署名の流れを案内し、「書類に直接署名したい」という顧客には郵送対応を提供するなど、柔軟に対応できる体制を整えておくことが大切です。
IT重説で失敗しないための4つの注意点

IT重説特有のリスクは、制度の仕組みを理解したうえで事前に手を打っておけば、大半を回避できます。
1. 通信トラブル発生時の対応手順を事前に決めておく

IT重説における最大のリスクは通信障害です。説明の途中で映像・音声が途切れた場合、双方向通信という法的要件を満たせない状態になります。その状態で説明を続けても有効な重説とは認められないため、やり直しが必要になります。

なぜ通信トラブルが問題になるかというと、「どこまで説明できていたか」「相手方が内容を確認できていたか」が不明確になるからです。部分的に途切れた状態でも全体が完了したとみなすことはできません。
防ぐための対策は、事前の取り決めです。説明開始前に顧客と「接続が切れた場合の連絡先と再開ルール」を確認しておきます。具体的には「切断時はすぐに電話でご連絡します」「5分以内に再接続できない場合は日程を変更します」という形で双方が理解した状態で臨むことが肝心。
再接続が完了したら、中断箇所から説明を再開するか、最初からやり直すかを判断します。
2. 画面越しでも顧客の理解度を都度確認する
対面説明では、顧客の表情や姿勢、視線の動きから理解の状況をある程度読み取れます。しかしオンラインでは、カメラ越しに映る情報が限られるため、非言語的なサインを拾いにくくなります。
この制約を補うには、説明の流れの中に確認タイミングを意図的に組み込む必要があります。章ごとに一度立ち止まり、「ここまでの内容でご質問はありますか」「この条件はご確認いただけましたか」と声をかけることで、理解度のギャップを早期に発見できます。
黙ってうなずくだけで通過させてしまうと、後になって「理解していなかった」「聞いていなかった」という状況が生じかねません。顧客に発話を促す問いかけを章ごとに入れることが、トラブル防止の実務的な方法です。
3. 「手軽さ」が法的軽視につながらないよう説明する
オンラインという形式の手軽さから、顧客が「重要事項説明をサクッと済ませる手続き」と捉えてしまうケースがあります。実際には、IT重説の法的効力は対面説明とまったく同等です。「説明を受けた」という法的事実が生じる点でも、後日紛争が発生した場合の扱いも、対面と変わりません。
画面越しでカジュアルに進むように見えるIT重説だからこそ、宅建士側が説明の冒頭で「この説明は対面と同じ法的効力を持ちます」と一言添えることが大切です。顧客の意識を整える一文があるだけで、説明に対する受け取り方が変わります。
合わせて、説明後に「内容を確認し、同意しました」という確認を口頭または書面で取ることで、後日のトラブルに備える記録が揃います。
4. 物件や契約の複雑さに応じて対面と使い分ける
IT重説はすべての取引に適しているわけではありません。特に、権利関係が複雑な土地・建物の売買や、高齢の顧客でオンライン操作への不安が大きいケースでは、対面でじっくり説明する方が双方にとって安全です。
「全件IT重説に切り替える」という方針ではなく、「IT重説を選択肢の一つとして持つ」という柔軟な運用が実務上の正解に近いといえます。顧客の状況や物件の複雑さを見ながら、IT重説と対面を使い分けることで、説明の質を落とさずに利便性を高められます。
事前準備さえ整えていれば、通信トラブルや法的リスクのほとんどは回避できます。完璧な体制が整うまで導入を先送りにするよりも、まず対応可能な案件から試験的に導入し、社内のノウハウを積み上げていくアプローチが現実的です。
まとめ:オンライン重説の導入に向けて

IT重説は、賃貸では2017年、売買では2021年から本格運用されている制度です。実施にあたっては双方向通信の確保、宅建士証の視認確認、書類の事前送付、相手方の同意取得という4つの要件を満たす必要があります。本記事で紹介した5ステップのフローに沿って準備を進めることで、初めてのIT重説も着実に実施できます。
4つの注意点は、いずれも事前の取り決めと確認習慣で防げるリスクばかりです。
社内体制の整備には、2024年12月改訂の国土交通省マニュアルが参考になります(出典:国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」2024年)。
不動産業務のオンライン化は、重要事項説明だけにとどまりません。無人内見くんは、内見受付から完了まで24時間オンラインで完結できる無人内見システムで、IT重説と合わせて導入することで、営業担当の負担をさらに軽減し、顧客対応の幅を広げられます。
IT重説の導入を機に、不動産業務全体のオンライン化を段階的に進めることで、顧客の利便性と自社の業務効率の両方を高められます。まずは国交省マニュアルを手元に置き、次の商談でIT重説を試してみることが、実質的な第一歩になります。