住宅展示場の呼び込みを再定義する。成約につながる呼び込み・企画とは
住宅展示場の来場者数は減少傾向が続き、従来型の呼び込みだけでは成果を出しにくい時代になっています。SNSでの事前リサーチが当たり前となり、来場者の質も大きく変化する中、デジタル活用と対面接客を融合させた新しい戦略が求められています。
今回は、成約につながる効果的な呼び込み手法と最新の集客アイデアを考えます。
目次
住宅展示場の呼び込みが難しくなっている背景
かつては週末になると家族連れで賑わっていた展示場も、今や来場者の確保に苦戦するケースが増えており、従来型の呼び込みや集客手法だけでは成果を出しにくくなっているのが実情です。この変化の背景には、いくつかの構造的な要因が存在しています。
住宅展示場への来場者数が減少している理由
住宅展示場協議会と住宅生産振興財団が発表している統計データによると、総合住宅展示場の来場者数は長期的な減少傾向にあります。2024年度の来場者組数は対前年度比5.5%減の約300万6,554組と減少が続いています(参考:住宅産業新聞社)。

減少の背景には、消費者の住宅購入プロセスそのものが変化していることがあります。以前は住宅展示場を訪れることが情報収集の第一歩でしたが、現在ではインターネットやSNSでの事前リサーチが主流となっています。国土交通省の「令和6年度住宅市場動向調査」では、注文住宅における情報収集方法として「インターネットで」と回答した割合が平成29年度の15.9%から令和6年度には46.6%へと大幅に増加しています。

さらに、ゼロシードの調査によると住宅購入者の主要層である30代では、Instagramを利用して情報収集を行った人が68%にのぼるという調査結果もあり、デジタルシフトの波は確実に住宅業界にも押し寄せています。こうした変化により、展示場への「なんとなく立ち寄る」来場者は減少し、事前に十分な情報を得た上で訪れる「目的来場者」の割合が高まっているのです。
広告・イベント頼みの集客からの脱却が求められている
従来、住宅展示場の集客といえば、折込チラシや住宅情報誌への広告掲載、週末の抽選会やキャラクターショーといったイベント施策が中心でした。しかし、こうした手法の効果は年々低下しています。
「令和6年度住宅市場動向調査」によれば、「新聞などの折込み広告」や「住宅情報誌」といった媒体は、情報収集手段としてインターネットに大きく抜かれており、若年層を中心にこれらの従来型メディアへの接触率は著しく低下しています。また、イベントによる集客も、単発的な来場者増加にはつながるものの、それが必ずしも成約に結びつかないという課題があります。
住宅購入を真剣に検討している層は、イベント目当てではなく、住まいそのものに関心を持って来場します。つまり、広告やイベントで「とりあえず人を集める」というアプローチから、「本当に興味を持っている人に的確にリーチする」戦略へのシフトが不可欠になっているのです。
来場者の行動が「比較・情報収集型」へ変化している
現代の住宅購入検討者は、展示場に足を運ぶ前に膨大な情報をインターネット上で収集しています。SNSでは実際に家を建てた人の投稿を参考にし、YouTubeでは住宅性能や間取りの解説動画を視聴し、比較サイトでは複数社の特徴を整理しています。
こうした事前リサーチの結果、来場時点ですでに候補会社を数社に絞り込んでいるケースが増えています。

住宅生産振興財団と住宅展示場協議会が発表している「総合住宅展示場来場者アンケート」によると、2024年の訪問箇所数は2.39箇所、訪問回数は4.79回でした。2019年の2.54箇所、5.30回と比較すると、訪問棟数と回数共に徐々に減少しており、以前のように多くの住宅を見て回るスタイルから、目的を持って特定の会社を訪問するスタイルへと変化していることがわかります。
来場者は「どこかいい会社はないかな」という漠然とした気持ちではなく、「この会社は自分の希望に合っているか確認したい」という明確な目的を持って訪れているのです。このような来場者に対しては、従来型の「とりあえず名簿を取得する」営業スタイルではなく、すでに持っている情報を踏まえた上で、より深い価値提供ができるかどうかが問われています。
住宅展示場で効果的な呼び込みを行うポイント
来場者数が減少し、その質が変化している今、展示場での呼び込みには従来以上に戦略的なアプローチが求められます。一人ひとりの来場者を大切にし、その場で信頼関係を築けるかどうかが、成約への第一歩となります。
第一印象を左右する立ち振る舞いと身だしなみ
住宅という人生最大級の買い物を検討している来場者にとって、最初に接するスタッフの印象は極めて重要です。清潔感のある服装はもちろんのこと、笑顔と明るい挨拶、そして適度な距離感を保った立ち位置が基本となります。
特に意識すべきは「押し付けがましくない」雰囲気づくりです。展示場の入口付近で腕を組んで立っていたり、来場者の動きを監視するような視線を送ったりすると、せっかく興味を持って訪れた人も足が遠のいてしまいます。自然な笑顔で会釈をする、さりげなく視線を合わせる程度に留め、威圧感を与えないことが大切です。
断られにくい声かけフレーズと心理的アプローチ
呼び込みの声かけで最も重要なのは、相手に「断る」という選択肢を意識させないことです。「いかがですか?」「見ていきませんか?」といった二者択一を迫る質問は、多くの場合「結構です」という返答を引き出してしまいます。
効果的なのは、情報提供型のアプローチです。「今日は○○のイベントを開催しておりまして」「この建物は最新の省エネ基準に対応した仕様になっています」といった具体的な情報を先に提供することで、相手の関心を引き出すことができます。また、「お子様向けのキッズスペースもご用意しております」など、来場者の状況に応じた気配りを示すことで、好印象を与えられます。
通行者の興味を引く「一言トーク」事例
限られた時間で来場者の興味を引くには、相手の関心事に直結する「一言」が効果的です。例えば、小さな子供連れの家族には「お子様が遊べるスペースがございますので、ゆっくりご覧いただけますよ」、若いカップルには「インスタ映えするデザイン空間もありますので、ぜひ写真撮ってみてください」といった具体的なメリットを伝えます。
また、季節や時事に関連した話題も有効です。夏場であれば「冷房の効いた涼しい空間で、最新の断熱性能を体感いただけます」、住宅ローン減税の制度変更時期には「今年の税制優遇について、資料をお渡しできますよ」など、タイムリーな情報提供は来場者の関心を引きつけます。
無理に引き止めない”自然な呼び込み”の流れ
呼び込みで最も避けるべきは、強引な引き止めです。一度断られた相手を無理に説得しようとすると、かえって悪い印象を与え、将来的な顧客機会まで失ってしまいます。
理想的なのは、「またいつでもお気軽にお立ち寄りください」と笑顔で見送る姿勢です。その際、「次回は○○のイベントがございますので」「平日ですとゆっくりご案内できます」といった次回来場のフックを軽く添えることで、将来的な再訪の可能性を残せます。また、簡単な資料やノベルティを渡すことで、帰宅後に思い出してもらうきっかけを作ることも効果的です。
イベント・キャンペーンによる来場促進アイデア
イベント施策は、依然として住宅展示場への集客において重要な役割を果たします。ただし、単に人を集めるだけでなく、成約につながる質の高い来場を促すことが求められます。
家族連れを惹きつける体験型イベント企画
住宅購入の主要層である30代のファミリー世帯を呼び込むには、子供が楽しめる体験型コンテンツが有効です。ワークショップ形式で木工教室や塗り絵教室を開催し、家づくりの一部を体験してもらうことで、住まいへの関心を自然に高めることができるでしょう。
また、省エネや防災をテーマにした親子向けセミナーなど、教育的価値のあるイベントは保護者からの評価も高く、質の高い来場につながりやすい傾向があります。
季節イベント(夏祭り・ハロウィン・クリスマスなど)の定番ネタ
季節に合わせたイベントは、展示場を訪れる動機づけとして効果的です。夏祭りであれば縁日風の屋台や金魚すくい、ハロウィンには仮装コンテストやお菓子配布、クリスマスには装飾見学やサンタクロースの登場など、非日常感を演出することで話題性を生み出せます。ただし、イベントそのものが目的化しないよう、必ず住宅見学とセットで案内する導線設計が重要です。
抽選会・プレゼント企画で来場の動機をつくる
来場特典としての抽選会やプレゼント企画は、依然として一定の集客効果があります。ただし、日用品や家電など、誰もが欲しいと思うような実用的な景品を用意することで、真剣な住宅検討者も含めた幅広い層を呼び込むことができます。また、アンケート回答者全員に小さなギフトを渡す仕組みにすることで、貴重な顧客情報の収集にもつながります。
イベント後のフォローで成約率を高める方法
イベントで獲得した名簿をそのまま放置していては、せっかくの機会が無駄になってしまいます。イベント終了後、数日以内に御礼のメールやDMを送り、次回来場やオンライン相談会への誘導を行うことが重要です。
また、イベント時の写真をSNSで共有し、参加者にタグ付けしてもらうことで、その友人・知人への口コミ効果も期待できます。継続的な接点を持ち続けることが、最終的な成約率向上につながるのです。
展示場の見せ方・導線設計で「入りやすさ」を演出する

どれだけ素晴らしいモデルハウスがあっても、来場者が気軽に入れないような雰囲気では意味がありません。物理的・心理的な障壁を取り除き、自然と足を踏み入れたくなる空間づくりが求められます。
入口付近のレイアウトとサインの工夫
展示場の入口は、来場者が最初に目にする重要なポイントです。「どなたでもご自由にご覧いただけます」「見学無料」といった明確なサインを設置することで、入場の心理的ハードルを下げることができます。また、駐車場から入口までの動線をわかりやすくし、案内看板やウェルカムボードを適切に配置することで、初めての来場者でも迷わず進める環境を整えましょう。
“写真映えスポット”をつくるメリット
SNS時代においては、「インスタ映え」する空間づくりも重要な集客要素です。展示場内にフォトスポットを設け、来場者に写真撮影を促すことで、SNS上での自然な拡散が期待できます。その際、ハッシュタグを提案したり、写真投稿キャンペーンを実施したりすることで、より多くの人々に展示場の存在を知ってもらうことができます。美しい空間は、それ自体が最高の広告となるのです。
展示場内の回遊動線を意識した配置
複数のモデルハウスがある総合展示場では、来場者が自然と複数の物件を見て回れるような動線設計が重要です。主要な通路沿いに休憩スペースやキッズエリアを配置し、歩き疲れずに長時間滞在できる環境を作ることで、より多くのモデルハウスを見学してもらえる可能性が高まります。また、各モデルハウスの特徴を示したマップを配布することで、目的に応じた効率的な見学をサポートできます。
SNS・Webを活用した呼び込み施策
現代の住宅購入検討者の多くは、展示場を訪れる前にオンラインで情報収集を行っています。デジタル上での接点づくりが、実際の来場につながる重要なステップとなっています。
Instagram・LINE公式アカウントで事前告知
Instagramは住宅業界との相性が非常に良いプラットフォームです。完成施工例の美しい写真や、建築中のプロセスを紹介する動画などを定期的に投稿することで、潜在顧客との接点を作ることができます。また、LINE公式アカウントを活用してイベント情報や見学会の案内を配信することで、既存の見込み客との継続的なコミュニケーションを図れます。事前予約特典を用意することで、来場の動機づけにもつながります。
Googleマップ・MEO対策で近隣来場を誘導
「近くの住宅展示場」で検索する人は、実際に訪問する可能性が高い貴重な見込み客です。Googleマップに正確な情報を登録し、営業時間や写真、口コミへの返信などを充実させることで、検索時の上位表示を狙えます。また、MEO(Map Engine Optimization)対策を行い、地域名を含むキーワードで検索された際に表示されやすくすることで、近隣住民の来場を促進できます。
展示場イベントのWeb広告活用法
FacebookやGoogle広告を活用することで、特定の地域や年齢層に絞った効率的な集客が可能になります。特に、住宅購入を検討している可能性が高い30〜40代のファミリー世帯をターゲットに、イベント告知や見学会の案内を配信することで、質の高い来場者を獲得できます。広告のクリエイティブには、実際の施工事例やイベントの様子など、具体的なイメージが湧く素材を使用することが重要です。
Web予約・デジタルクーポンの導入効果
Webサイトから事前に見学予約ができる仕組みを導入することで、来場のハードルを大きく下げることができます。また、オンライン予約限定の特典やデジタルクーポンを提供することで、予約率を高められます。予約情報を事前に把握することで、スタッフの配置や案内の準備も効率化でき、来場者により質の高い対応を提供できるようになります。
無人化・DXで来場ハードルを下げる新しい呼び込み戦略
テクノロジーの進化により、住宅展示場の運営方法にも新たな選択肢が生まれています。特に、スタッフとの対面を避けたい層や、営業時間外に見学したい層に対して、無人化やDXの取り組みは大きな可能性を秘めています。
スタッフがいなくても来場できる”非対面モデル”とは
コロナ禍を経て、「営業マンに囲まれたくない」「自分のペースでゆっくり見たい」というニーズが高まっています。こうした層に対しては、スタッフが常駐しない見学スタイルが効果的です。QRコードや専用アプリを使った自己案内システムを導入することで、来場者は自由に展示場を見学でき、必要に応じてチャットやビデオ通話でスタッフに質問できる環境を整えることができます。
「無人内見」による住宅展示場の新しい集客スタイル
無人での見学を可能にするサービスとして注目を集めているのが「無人内見くん」です。スマートロックとIoT技術を活用し、営業担当者が立ち会わなくても安全に物件見学ができる仕組みを提供しています。
来場者は事前にWebサイトやアプリから見学予約を行い、指定された時間にスマートフォンで解錠するだけで、自由に展示場を見学できます。見学中は室内カメラで遠隔監視が行われるため、セキュリティ面も安心です。また、見学後のアンケート機能により、顧客の関心度合いを把握し、その後の営業活動に活かすことができます。
営業時間外の見学やリード獲得を可能にする仕組み
無人内見システムの最大のメリットは、24時間365日いつでも見学可能な点です。平日の日中は仕事で訪問できない共働き世帯や、週末も予定が詰まっている忙しいファミリーにとって、夜間や早朝の見学ができることは大きな価値となります。また、スタッフの人件費削減にもつながり、より多くの見込み客に対応できる体制を構築できます。見学予約の段階で顧客情報を取得できるため、その後のフォローアップもスムーズに行えます。
AI・IoTを活用したデジタル時代の展示場運営
無人内見システム以外にも、AI音声ガイドやVR内見、スマートホーム機器のデモンストレーションなど、最新テクノロジーを活用した展示場運営が広がっています。来場者の動線をセンサーで分析し、どのエリアに興味を持ったかをデータ化することで、より精度の高い営業提案が可能になります。また、Web上でのバーチャル見学と実際の展示場見学を組み合わせることで、遠方の顧客にもアプローチできる新たな集客モデルが生まれています。
スタッフ教育とチームでの呼び込み強化
どれだけ優れたシステムや施策を導入しても、最終的に成約を左右するのは人です。スタッフ一人ひとりのスキル向上と、チーム全体での継続的な改善が、持続的な成果につながります。
トークマニュアル・スクリプトの作成
属人的なスキルに頼るのではなく、誰でも一定水準以上の対応ができるよう、トークマニュアルやスクリプトの整備が重要です。来場者のタイプ別に効果的な声かけ方法や、よくある質問への回答例、断られた際の対応方法などを文書化し、新人スタッフでもすぐに実践できる環境を整えましょう。ただし、マニュアルに頼りすぎて機械的な対応にならないよう、柔軟性を持たせることも大切です。
ロールプレイングによるスキルアップ
定期的なロールプレイング研修を実施することで、実践的なスキルを磨き続けることが重要です。先輩スタッフが来場者役を演じ、様々なシチュエーションでの対応を練習することで、本番での対応力が向上します。また、他のスタッフの対応を観察することで、新たな気づきや改善点を発見できます。ロールプレイング後には必ずフィードバックの時間を設け、良かった点と改善点を共有することが重要です。
チームで成果を共有するPDCAサイクル
個人の経験や成功事例をチーム全体で共有する仕組みづくりが、組織全体の底上げにつながります。週次や月次のミーティングで、成約につながった声かけ方法や、効果的だったイベント企画、失敗事例とその改善策などを共有し、全員で学び合う文化を醸成しましょう。
また、来場者数や成約率などのKPIを設定し、定期的に振り返ることで、継続的な改善サイクルを回すことができます。データに基づいた意思決定と、現場の感覚を組み合わせることで、より効果的な呼び込み戦略を構築できるのです。