賃貸の電子契約とは?流れ・メリット・注意点を解説
賃貸の電子契約とは、インターネット上で電子署名を用いて賃貸借契約を締結する方法です。
2022年5月の宅地建物取引業法改正によって正式に解禁され、重要事項説明書や賃貸借契約書を電子データで交付・署名できるようになりました。法的に紙の契約と同等の効力を持つため、不動産会社は来店も郵送もない契約フローを構築できます。
すでに不動産会社の約6割が電子契約を経験済みで、業界での普及が進んでいます。

出典:PR TIMES(株式会社いえらぶGROUP調査)「電子契約に関するアンケート調査(2025年)」2025年
この記事では、賃貸の電子契約の基本から、申込から締結までの流れ、メリット、導入前に押さえるべき注意点までを順に整理し、自社が安全に移行を進められるかを判断できる状態を目指します。
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目次
賃貸の電子契約とは? 法改正の背景と電子化できる書類

賃貸の電子契約は、2022年5月の宅地建物取引業法改正によって法的に解禁されました。電子署名を用いて締結した契約は、紙の契約と同等の法的効力を持ちます。これにより、重要事項説明書や賃貸借契約書を電子データでやり取りする運用が正式に認められました。
ただし、すべての書類を電子化できるわけではありません。電子化できる書類とできない書類には明確な線引きがあるため、まずは仕組みと法的根拠を理解したうえで、対象書類の範囲を確認していきます。
電子契約の仕組みと紙契約との違い
電子契約と紙契約の最大の違いは、本人確認と書面の真正性を担保する手段にあります。紙契約では署名と捺印が「本人が合意した証拠」になりますが、電子契約ではこれを電子署名とタイムスタンプが代替します。
電子署名が誰の意思によるものかを示し、タイムスタンプがその時刻に書面が存在し以後改ざんされていないことを証明する仕組みです。

この電子署名が法的効力を持つのは、電子署名法に基づく本人性(誰が署名したか)と非改ざん性(署名後に内容が変えられていないか)の要件を満たすためです。要件を満たした電子署名は、紙の署名捺印と同等に扱われます。
電子化できる書類とできない書類
電子化できる書類とできない書類は、法令上の要件で分かれます。

電子化が可能な代表例は、重要事項説明書(宅建業法35条書面)と賃貸借契約書(37条書面)です。加えて、媒介契約締結時の書面や指定流通機構への登録を証する書面も電子化の対象に含まれます。賃貸の入居契約で扱う中心的な書類は、電子データでの交付・署名が認められていると考えてよいでしょう。
一方で電子化できないのが、事業用定期借地契約です。借地借家法23条が契約締結に公正証書を求めているため、電子データでは要件を満たせません。なお、混同しやすい点として、定期借家契約の事前説明書面は電子交付が可能です。
同じ「定期」でも、事業用定期借地と定期借家では電子化の可否が異なる点に注意してください。
賃貸の電子契約はどう進む? 申込から締結までの4ステップ

賃貸の電子契約は、入居者がすでに電子契約に承諾していることを前提に、4つの段階で進みます。具体的には、次の流れです。
- 入居申込と電子契約への承諾取得
- IT重説(オンラインでの重要事項説明)
- 電子署名による契約締結
- 契約データの保管
1. 入居申込と電子契約への承諾取得
最初のステップは、入居申込と電子契約への承諾取得です。入居者が物件を決めて申込を行い、審査を通過した段階で、不動産会社は「この契約を電子契約で進めてよいか」の承諾を取得します。
承諾はメールやWebフォームなど、記録が残る方法で取得します。電子契約は相手方の承諾なく進めることができないため、ここを飛ばすと後の手続きすべてが法的に成立しなくなります。

あわせて、承諾を得た後でも入居者が希望すれば書面(紙)への変更ができる旨を伝える義務があります。承諾を取れば一度きりで確定する、というものではない点を案内に含めてください。
2. IT重説(オンラインでの重要事項説明)
承諾が取れたら、IT重説に進みます。宅地建物取引士がビデオ通話ツールを使って重要事項説明を行う方式で、事前に電子データの重要事項説明書を入居者へ送付しておく必要があります。入居者が手元で書面を確認できる状態を整えてから説明を始めます。
説明の際は、宅建士証をカメラに映して本人確認を行い、入居者と宅建士の双方で書面内容に改変がないことを確認します。ここで重要なのは、IT重説はあくまで宅建業法上の重要事項説明そのものであり、電子契約だからといって省略できるものではないという点です。実施方法がオンラインに変わるだけで、説明義務の中身は紙の契約と変わりません。

あわせて注意したいのが、クーリングオフとの関係です。借主側がIT重説を希望してオンラインで説明を受けた場合、申込の撤回(クーリングオフ)が適用されないケースがあります。入居者にとって不利になり得る論点なので、案内段階で触れておくとトラブルを避けられます。
3. 電子署名による契約締結
重要事項説明を終えたら、電子契約システム上で契約を締結します。入居者と貸主側の双方がシステム上で電子署名を行い、署名にタイムスタンプが付与された時点で契約が成立します。紙のように郵送で書類を往復させる必要はありません。
この電子署名が紙の署名捺印と同等の効力を持つのは、電子署名法が定める本人性と非改ざん性の2要件を満たすためです。誰が署名したかが特定でき、署名後に内容が変えられていないことが担保されていれば、法的にも紙と同じ重みで扱われます。
4. 契約データの保管
契約が成立したら、最後のステップとして締結済みの契約データを保管します。電子契約で締結した契約書は電子データのまま保存する必要があり、その際は電子帳簿保存法の要件に準拠した保管が求められます。
保管要件の具体的な中身(タイムスタンプや検索性の確保など)は導入準備に直結する論点のため、後述の注意点で詳しく扱います。ここでは、契約は署名で終わりではなく、適切に保存して初めて運用が完結するという点を押さえてください。
賃貸の電子契約で何が変わる? 不動産会社と入居者それぞれのメリット

賃貸の電子契約は、不動産会社と入居者の双方にメリットをもたらします。不動産会社にとってはコスト削減と契約リードタイムの短縮、入居者にとっては来店不要と日程調整の柔軟さです。それぞれの立場で何が変わるのかを具体的に見ていきます。
不動産会社側の3つのメリット
不動産会社が得られるメリットは、印紙税・郵送費のコスト削減、契約リードタイムの短縮、書類保管スペースの削減の3点です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 印紙税・郵送費のコスト削減
電子契約では、紙の契約書にかかっていた印紙税と郵送費が不要になります。電子データは印紙税法上の課税文書に該当しないため、収入印紙を貼る必要がありません。賃貸借契約での印紙税負担は限定的ですが、不動産売買のように契約金額が大きい取引では数十万円規模の削減になることもあります。
郵送費や封入の手間もなくなるため、契約1件あたりの実務コストが下がります。
2. 契約リードタイムの短縮
紙の契約では、書類を印刷し、郵送し、署名捺印して返送するまでに数日から1週間かかることがあります。電子契約ならオンライン上で署名が完結するため、この往復にかかっていた日数を大幅に圧縮できます。
申込から契約成立までのリードタイムが短くなることで、他社への流出や繁忙期の処理遅延を防ぎやすくなります。
3. 書類保管スペースの削減
契約書を電子データで保管すれば、紙の契約書を保存するためのキャビネットや保管スペースが不要になります。
物件数や契約件数が増えるほど紙の保管負担は積み上がりますが、電子化すればこの負担から解放されます。過去契約の検索もデータ上で完結するため、書類を探す時間も短縮できます。
入居者側の3つのメリット
入居者にとってのメリットは、来店・移動が不要になること、契約日を柔軟に調整できること、署名・捺印の手間が減ることの3点です。
1. 来店・移動が不要になる
電子契約なら、契約のために店舗へ足を運ぶ必要がありません。重要事項説明から署名までをオンラインで完結できるため、仕事や学業で時間が取りにくい入居者でも契約を進められます。
特に、遠方への転勤や進学で物件を探す入居者にとっては、現地に何度も通わずに契約できるメリットが大きくなります。
2. 契約日を柔軟に調整できる
来店を前提にしないため、店舗の営業時間や定休日に縛られず契約のタイミングを調整できます。夜間や休日でも自分の都合に合わせて署名できるので、不動産会社と入居者の予定を無理に合わせる必要が減ります。
引っ越しスケジュールがタイトな場合でも、契約手続きがボトルネックになりにくくなります。
3. 署名・捺印の手間が減る
紙の契約で必要だった署名と捺印、印鑑の用意といった作業がなくなります。画面上の操作で署名が完了するため、印鑑証明の準備や書類の返送に追われることもありません。
手続きそのものが簡素になることで、入居者の心理的な負担も軽くなります。
賃貸の電子契約を始める前に確認すべき3つの注意点

電子契約のメリットを安全に受け取るには、導入前に整えるべき準備があります。
具体的には、入居者・オーナーからの事前承諾、電子署名法・電子帳簿保存法への準拠、社内体制の整備という3つの注意点です。準備が不十分なまま導入すると、契約の効力を争われたり、二重運用で現場が混乱したりするリスクが生じます。
順に確認していきます。
1. 入居者・オーナーからの事前承諾を得る
最初に確認すべきは、入居者とオーナー双方からの事前承諾です。電子契約は相手方の承諾を前提とする制度であり、承諾なく電子契約を進めることは法的に認められていません。承諾が得られない場合は、紙の書面で対応する義務があります。
ここで押さえておきたいのは、入居者には電子契約を拒否して紙契約を選ぶ権利があるという点です。不動産会社の側から電子契約の利用を強制することはできません。入居者が紙を希望すれば、その意向に従って書面で契約を進める必要があります。

実務上の障壁になりやすいのが、オーナー側の承諾です。特に高齢のオーナーはデジタル手続きに不安を抱きやすく、説明や説得に時間がかかります。オーナーへの理解促進をどう進めるかは、導入計画の早い段階で検討しておくべき課題です。
2. 電子署名法・電子帳簿保存法に準拠する
2つ目は、電子署名法と電子帳簿保存法への準拠です。この2つの法令を満たさないと、契約の有効性やデータ保管の適法性が問われます。

電子署名法については、本人性(誰が署名したか)と非改ざん性(署名後に変えられていないか)の2要件を満たすシステムを選ぶことが前提になります。
この要件を満たさない署名方式を使うと、いざというときに契約の法的効力を争われるリスクがあります。システム選定では、どのような本人確認とタイムスタンプの仕組みを備えているかを確認してください。
3. 社内体制の整備とセキュリティ対策
3つ目は、社内体制の整備とセキュリティ対策です。電子契約はシステムを導入すれば終わりではなく、運用ルールと併用体制、情報管理の仕組みを同時に整える必要があります。以下の3つの観点で準備を進めてください。
3-1. 社内規程と業務フローの見直し
電子契約を導入すると、押印を前提にした既存の業務フローが合わなくなります。印章管理規程や文書管理規程を電子契約に対応した内容へ改定し、誰がどの権限で署名・承認を行うかを明確にしてください。
規程を整えないまま運用を始めると、承認の責任範囲が曖昧になり、内部統制上の問題につながります。
3-2. 紙契約との併用体制の設計
電子契約に一本化せず、紙契約との併用体制を残すことが現実的な選択です。デジタル操作に不慣れな高齢の入居者やオーナーが一定数いるため、紙での対応を完全に廃止すると契約できない相手が出てしまいます。電子と紙のどちらでも対応できるフローを設計し、相手の希望に応じて切り替えられる状態を保ってください。
あわせて、契約締結だけでなく更新・解約の手続きをどう電子化するかも、導入計画の段階で検討対象に含めておくと、後の二度手間を防げます。
3-3. セキュリティ対策の実施
契約データには個人情報や機密情報が含まれるため、情報漏えいや改ざんを防ぐ対策が欠かせません。アクセス権限の制御で閲覧・編集できる担当者を限定し、データの暗号化で外部への流出に備えます。操作ログを残して誰がいつ何をしたかを追える状態にしておくことも、トラブル時の対応に役立ちます。
これらの基本的なセキュリティ対策を導入前に整えておき、特にパスワード管理とアクセス権限の設定を最優先で確認してください。
まとめ

賃貸の電子契約は、2022年の宅建業法改正ですでに法的に解禁されており、承諾取得・法令準拠・社内体制整備という事前準備を整えれば、安全に導入できます。電子署名があれば紙と同等の効力を持つため、法的根拠を理由に移行をためらう必要はありません。
紙契約からの移行でコスト削減と業務効率化を同時に実現したいなら、まずは自社が入居者・オーナーの承諾を得られる体制と、電子署名法・電子帳簿保存法に準拠したシステム選定の基準を固めるところから着手するのがおすすめです。法的基盤が整った今は、準備を進めるのに適したタイミングだと言えます。
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