IT重説対応物件とは、テレビ電話などのIT機器を使って重要事項説明(重説)をオンラインで実施できる物件のことです。宅建業法の規定のもと、対面に代わるオンラインでの重説が法的に認められており、遠方に住む顧客や多忙なスケジュールの顧客との取引をスムーズに進められます。

IT重説を実施するには、貸主・売主を含む関係者全員の同意、安定した通信環境の確保、重要事項説明書の事前送付という3つの前提が必要です。物件の種別や立地に関係なく、条件を整えれば対応できます。

2022年5月の宅建業法改正で重要事項説明書の電子化も解禁され、不動産取引のオンライン完結が法的に可能になりました。一方、国土交通省が宅建業者を対象に実施した令和5年度調査では、IT重説の導入率は約18%にとどまっています(出典:不動産流通推進センター「書面電子化とIT重説」2024年)。多くの不動産会社にとって本格導入はこれからの段階です。

本記事では、IT重説対応物件の定義と対応条件、導入メリット・デメリット、実施手順までを整理します。

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IT重説対応物件とは?定義と対応するための条件

IT重説対応物件を正しく理解するには、制度がどのような経緯で生まれたかを知っておくと判断しやすくなります。また「IT重説対応物件」という名称から「何か特殊な物件では?」と誤解する顧客もいるため、業者として正確に説明できる知識を持っておきたいところです。

IT重説が制度化された背景

IT重説の起点は2015年8月の社会実験です。国土交通省が賃貸住宅を対象に実証を開始し、特段の問題が生じなかったことが確認されました(出典:国土交通省「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験に関する検証検討会」2021年)。

2017年10月、賃貸取引でのIT重説が本格運用へ移行しました(出典:国土交通省「賃貸取引に係るIT重説の本格運用を開始」2017年)。社会実験開始からわずか2年での本格運用という、当時としては迅速な制度整備です。

2021年にはデジタル改革関連法が成立し、不動産取引における書面の電子化に向けた法的根拠が整いました。同年3月には売買取引へのIT重説適用も本格運用が始まり、賃貸に限らず幅広い取引で活用できる制度に拡充されています。

さらに2022年5月の宅建業法改正では、重要事項説明書そのものの電子化が解禁され、宅建士の押印義務も廃止されました。この改正により、重要事項説明書を電子書面として送付し、IT重説でオンライン説明を行い、電子署名で契約を締結するという完全オンラインの取引フローが実現できるようになりました。

IT重説対応物件になるための条件

IT重説対応物件に、物件種別の制限はありません。マンション・戸建て・土地・店舗など、どのカテゴリの物件でも条件さえ整えば実施できます。

対応に必要な条件は次の3点です。第一に、貸主または売主の同意を得ていること。第二に、借主または買主がIT重説を受けることに同意していること。

第三に、双方が安定したインターネット環境とマイク・カメラ付きの端末を用意していることです。

一方、すべての取引をIT重説に切り替える必要はありません。権利関係が複雑な物件や、IT機器の操作に強い抵抗感を持つ顧客の場合は、対面での説明を選択する判断も合理的です。

売買取引でもIT重説は実施できる

2021年3月から、売買取引でもIT重説の本格運用が始まりました。賃貸に限らず、土地・戸建て・マンションの売買においてもオンラインでの重要事項説明が法的に認められています。

ただし、売買は賃貸と比べて取引金額が大きく、抵当権の設定状況や境界確定の有無など権利関係が複雑になりやすい傾向があります。画面越しの説明では細かい図面や地図の視認性が下がる場面もあるため、画面共有の方法や事前資料の充実度に特に気を配る必要があります。

前述の書面電子化と組み合わせれば、売買においても重要事項説明書を電子書面として送付し、IT重説でオンライン説明を完了させるフローが成立します。具体的な実施手順は後述の「IT重説を実施する5つのステップ」にまとめています。

IT重説を導入する4つのメリット

IT重説の導入は、不動産会社の業務効率を高めるだけでなく、顧客の利便性という観点からも商談の質を底上げします。メリットは大きく4つに整理できます。

1. 遠方の顧客との取引機会を拡大できる

転勤や進学を控えた顧客は、新居のある地域に足を運べないまま物件を探しているケースが少なくありません。IT重説を活用すれば、全国どこにいても重要事項の説明を完了させられます。

海外在住の日本人投資家や、地方在住で都市部の物件を購入したい顧客など、これまで「来店できないから取引できない」と取りこぼしていた層へのアプローチが現実的になります。商圏を物理的な距離から切り離せることが、IT重説最大の強みです。

借主の側から見れば、慣れない土地に移動するコストと時間を節約しながら、自宅のパソコンやスマートフォンで説明を受けられます。物件の比較検討と並行して重説まで進められる利便性は、顧客満足度の向上にも直結します。

2. 日程調整が柔軟になり契約スピードが上がる

来店が前提だと、顧客と担当者の双方のスケジュールを合わせる必要があり、最短でも数日から1週間程度のタイムラグが生じることがあります。IT重説なら、営業時間外や休日でも双方が合意すれば実施できます。

「競合物件への流出」が最も起きやすいのは、契約意思を固めた顧客が次の手続きを待っている間です。重説の日程を柔軟に設定できれば、このタイムラグを圧縮でき、契約までのリードタイムを短縮できます。借主にとっても「決めたいのに動けない」ストレスが減り、取引体験の質が上がります。

3. 移動コストと営業リソースを削減できる

対面での重説では、担当者が顧客の自宅や指定場所へ出向くケースもあります。IT重説に切り替えると、この移動時間と交通費を他の業務に充てられます。

1件あたりの移動コストは小さく見えても、月に複数件をIT重説で対応すれば積み上がる効果は無視できません。会議室の確保が不要になる点も、店舗運営のコスト構造を改善します。空いたリソースは新規顧客の対応や物件調査に回せます。

4. 録画記録でコンプライアンスを強化できる

IT重説ではビデオ会議ツールの録画機能を使い、説明の全過程を記録に残せます。「そんな説明は受けていない」というクレームが発生した際、録画データが客観的な証跡として機能します。

録画はコンプライアンス上のリスク管理だけでなく、社内研修への転用も可能です。熟練の担当者が丁寧に説明している場面を録画し、新人スタッフの教育素材として活用することで、組織全体の説明品質を底上げできます。

IT重説で起こりうる3つのデメリットと対策

IT重説はメリットが大きい一方で、対面との違いから生まれる固有のリスクもあります。デメリットを把握し、あらかじめ対策を講じておくことで、導入後のトラブルを最小限に抑えられます。

1. 通信障害で説明が中断するリスクがある

IT重説の最大のリスクは、通信状況の悪化による説明の中断です。宅建業法の要件上、映像と音声がリアルタイムで双方向に確保されていることが前提のため、接続が切れた状態で説明を続けることはできません。

対策は3段階で準備しておくと安心です。まず説明の前日または当日の開始前に、双方で接続テストを実施します。次に、接続が途絶えた場合は電話に切り替えてトラブルの原因を確認し、状況次第で日程を再調整するという手順を、説明開始前に顧客と共有しておきます。

最後に、できれば担当者側は有線LANを使い、Wi-Fiへの依存を減らしておくと安定します。

「もし途中で切れたらどうなりますか?」という不安を顧客が持つことも多いため、説明の冒頭で対応フローを簡潔に伝えておくことで、顧客の安心感につながります。

2. 対面より説明内容が軽視されやすい

画面越しの説明は、対面に比べて緊張感が薄れ、重要な告知事項が流されやすい傾向があります。特に長時間にわたる説明では、顧客の集中力が途切れるリスクがあります。

対策として有効なのは、画面共有で資料を表示しながら説明することです。口頭だけでなく視覚的にも情報を提示することで、重要箇所の認識を強めます。

また、各章の説明が終わるたびに「ここまでで不明な点はありますか?」と質問タイムを設けると、理解度を確認しながら進められます。録画の活用も、顧客が後から内容を振り返る手段として説明の信頼性を高めます。

3. 関係者全員の事前同意が必要になる

IT重説の実施には、借主・買主だけでなく、貸主・売主を含む関係者全員の事前同意が法的に求められます。実務上、貸主(オーナー)の同意を取り忘れるケースが起きやすい点に注意が必要です。

対策として、物件を管理システムに登録する段階でオーナーからIT重説の同意を一括で取得する運用が効果的です。個別案件が発生してから都度確認する方式だと、対応が遅れたり同意取得の記録が散逸したりするリスクがあります。同意書のひな型を用意し、物件登録フローに組み込んでしまうのが現実的な対処法です。

顧客がIT重説を希望しない場合は対面での重説に切り替えるという選択肢を残しておくことも、信頼関係の維持につながります。

IT重説を実施する5つのステップ

IT重説の実施には、国土交通省が定める4つの要件(通信環境の確保・重要事項説明書の事前送付・映像と音声の双方向確認・宅建士証の画面提示)をすべて満たすことが法的な前提となります。以下の5ステップはその要件を順番に満たす流れで構成されています。

  1. IT環境の確認と接続テスト
  2. 重要事項説明書の事前送付
  3. 宅建士証の提示と本人確認
  4. 録画同意の取得と重要事項の説明
  5. 署名済み書面の返送または電子署名

Step 1. IT環境の確認と接続テスト

説明実施前に、双方の通信環境を確認します。国土交通省が定める要件上、映像と音声がリアルタイムで双方向に送受信できる状態が維持されていなければなりません。

  1. 担当者と顧客が使用するビデオ会議ツール(Zoom、Microsoft Teamsなどの汎用ツールで対応可能です)を確認し、IDや参加方法を事前に共有します。
  2. 説明の前日または当日の開始30分前を目安に、カメラ・マイク・スピーカーの動作確認を双方で行います。
  3. 顧客がIT機器の操作に慣れていない場合は、接続手順をメールや画面キャプチャつきのマニュアルで補足します。
  4. 担当者側はできる限り有線LAN環境を用意し、接続安定性を確保します。

Step 2. 重要事項説明書の事前送付

重要事項説明書は、IT重説の実施前に顧客へ届けておく必要があります。2022年5月以降は電子メールへの添付やWebダウンロード形式での送付も認められています(出典:国土交通省「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります」2022年)。

  1. 重要事項説明書をPDFなどの電子書面として作成し、電子メールに添付して送付します。Webダウンロード形式でも対応可能です。
  2. 顧客に「説明日までに内容を一読しておいてください」と案内することで、当日の理解度が上がります。
  3. 紙書面を希望する顧客には郵送対応も選択肢として提示します。いずれにしても、説明開始前に顧客の手元に届いていることを当日の冒頭で確認します。

Step 3. 宅建士証の提示と本人確認

IT重説の開始時に、担当の宅地建物取引士は自身の宅建士証を画面上に提示し、顧客に視認させることが法的に義務付けられています。

  1. 説明開始の冒頭、挨拶の直後に宅建士証をカメラに向けて提示します。顧客が氏名と登録番号を確認できる程度の大きさで映します。
  2. 「宅建士証を確認いただけましたか?」と顧客に口頭で確認し、応答を得てから説明に進みます。
  3. 複数の宅建士が説明に関わる場合は、それぞれが順番に提示します。

Step 4. 録画同意の取得と重要事項の説明

このステップが実務上の核心部分です。説明の記録は後のトラブル防止に直結するため、録画同意の取得と説明の進め方に細心の注意を払います。

  1. 宅建士証の提示が終わったら、「本日の説明を録画・録音させていただいてよろしいでしょうか」と顧客に確認します。顧客の口頭での同意を得てから録画を開始します。録画開始後に同意を求めても法的・実務的に問題が生じることがあるため、同意の取得は録画前が原則です。
  2. 画面共有機能を使い、重要事項説明書を顧客の画面にも表示させた状態で説明を進めます。口頭での説明と視覚的な資料提示を並行することで、理解のずれを防ぎます。
  3. 各章(物件の表示・権利関係・法令上の制限・施設の整備状況など)の説明が一区切りするたびに「ここまでご質問はありますか?」と確認します。顧客が遠慮して質問しにくい場合もあるため、「特にないようであれば次に進みます」と自然に促す形にすると会話のテンポが保ちやすくなります。
  4. 説明の全過程が録画されていることを念頭に、重要事項の読み飛ばしや省略がないよう丁寧に進めます。
  5. 説明終了後、録画を停止し「以上で重要事項説明を終了します」と明確に宣言してセッションを閉じます。

Step 5. 署名済み書面の返送または電子署名

IT重説が完了したら、顧客に重要事項説明書への署名・押印を依頼し、手続きを完結させます。

  1. 紙書面で対応する場合は、顧客が署名・押印した書面を郵送で返送してもらいます。
  2. 電子署名サービス(クラウドサインやDocuSignなど)を使う場合は、システム上で署名依頼を送信し、顧客が電子署名を付与する手順を案内します。
  3. 電子署名と電子書面の組み合わせでは、契約書類の締結まで完全オンラインで完結できます。2022年の宅建業法改正以降、この組み合わせが法的に問題なく成立することを顧客に説明しておくと、顧客の安心感につながります。
  4. 署名済み書面(電子・紙いずれも)は必ず保存し、録画データとあわせて管理します。

IT重説対応で広がる不動産取引の選択肢まとめ

IT重説対応物件とは、関係者全員の同意と通信環境を整えることで、どの物件種別でもオンラインでの重要事項説明を実施できる物件のことです。

2015年の社会実験から2022年の書面電子化解禁まで段階的に制度が整備され、賃貸だけでなく売買においても完全オンラインの取引フローが法的に確立されました。遠方顧客への対応力の向上、日程調整の柔軟化、移動コストの削減、録画によるコンプライアンス強化という4つのメリットは、事業規模を問わず不動産会社の業務改善に寄与します。

IT重説で重要事項説明のオンライン化を実現した後、内見対応にはまだ営業リソースが必要という課題が残ります。私たちショウタイム24株式会社が運営する無人内見くんは、内見受付から完了まで24時間無人で対応できる特許取得済みのシステムです。重説と内見の両方をDX化する選択肢として、参考にしてください。

IT重説対応物件の条件と実施手順を把握しておくことで、問い合わせがあった際にすぐ対応できる体制を整えられます。制度の理解を深め、顧客にとって使いやすい取引環境づくりの一歩として、IT重説の導入を検討してみてください。